• 長谷川万大

「夙夜」

最終更新: 2018年12月31日

3rdアルバム「綺譚」収録


「夙夜(しゅくや)」とは、一晩中のこと。

これに「夢寐(むび)」という言葉がくっつくと、朝から晩まで一日中想い続けています、という意味になる。

『夜間飛行』の対になる曲として書いた。

おさえきれない恋心が夜空を旅して愛慕の人のもとへ飛んで行く女性の内面を歌った『夜間飛行』。

一方、ひとりの部屋で星空を見上げる男の長い夜を描いた『夙夜』。

女性のほうがアクティブだ。

男は何をやっとるんだ。部屋の中でただ悶々とジタバタして、それじゃ何も生まれない。苦しさが増すばかりである。

ああ、ボクみたい。いや、なんでもない。

一枚目のアルバムに入った『微笑みは罪』、二枚目の『ちいさなラブソング』といったこの手の“もどかしい歌”を書く時は、いつもある思いを抱いている。

男子ってアホだけど、実はかわいい生き物なんですよ、ということ。物は言いようという気がしないでもないが、そう堅いこと言わずに。

三枚のアルバムに収められた一連の“この手の歌”で伝えたいのはまさにそれなのだ。

朝の来ない夜はない、或いは、やまない雨はないと言うけれど、心の中はそうでない時もある。

自分の心が深い暗闇に包まれている時は、他人の幸せな姿ばかりが頭を巡り、この世界で自分だけが不幸であると思い込む。誰しもがそれぞれ何かしらを抱えていて、それを人に見せないように上手に生きているのに、どうしても卑屈になってしまう。

だから、

〽人も街も 朝をむかえるころ ひとり夜にとりのこされたまま

と歌うのである。

『夜間飛行』では恋心は夜空を旅して相手のもとへ飛んで行くが、『夙夜』はずっと部屋に引きこもっている。頭の中だけで盛り上がって、何一つ行動していないのではないか、この男は。

ということは、

〽あまりにも長い心の凪 うごかない君の心の中 どこまでも星の海

と歌うのは当然なのかも知れない。

どちらも夜の空を舞台に切ない心の中を歌っているはずなのに、相反する歌である。

そうそう、この前宮崎に帰った時、夜の日南海岸を車で走っていて、ふと窓の外を見上げると夜空が異様に光っていた。道路脇の展望エリアみたいなところに車を停めてもらって、降りて再び見上げると、プラネタリウムよりも鮮明に星のひとつひとつが強い輝きを放って、それが空一面に広がっていた。

あんな光景を見たのは初めてだった。

まさに、どこまでも星の海。

降り注ぐような星空を前にすると、何も考えられなくなる。何もできなくなってしまう。

この神秘的な星空に出会ったのは歌を作った後だが、ボクの書いた歌詞はやはり間違いではなかった。

こんな星空に出会ってしまったら、たったひとりだけ夜にとりのこされもするし、よくわかんないことを考えたりもするだろう。

あの日の星空には、夙夜という言葉がぴったりだった。


「夙夜」

作詞・作曲・編曲 長谷川万大


眠れない夜は 甘い君の香り

熱い痛みとともに からだをしめつける とけない魔法

今日のおしまいと 明日のはじまりが

重なるこの静寂(しじま) 空と海のように 境目などない

ひとも街も朝をむかえるころ ひとり夜にとりのこされたまま

見上げれば 星の海


君を想うほど 胸のトゲは深く

悲しみの底で 描いた夢丸めて 捨てては拾い

きっとかえらない 愛でもかまわない

君の視線の先 かならずぼくじゃない それでもいつかは

あまりにも長い心の凪 うごかない君の心の中

どこまでも 星の海


ひとも街も朝をむかえるころ ひとり夜にとりのこされたまま

見上げてた 星の海

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