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「夜間飛行」

更新日:2018年12月31日

3rdアルバム「綺譚」収録


この歌にはモデルがいる。

スウェーデン出身の女優グレタ・ガルボだ。

彼女は晩年、口紅を差すのもままならず、自分の老いた姿を見たくないという思いから鏡を身近に置かない生活をしていたらしい。

三十五歳ですっぱり女優を辞め、人嫌いでメディアやインタビューにも一切登場しなかった彼女の生き方に魅力を感じた。

グレタ・ガルボには夜が似合う。

謎に包まれたその神秘的なオーラは、夜の闇の中でも月ほどは大きくないにしろ、群星の中でひときわ輝く存在感がある。

グレタ・ガルボのことを考えているうち、勝手に妄想を始めた。

そんなグレタ・ガルボがもしもストーカー気質の恐い女だったら。

ボクの頭の中ではしょっちゅう繰り広げられているもしもシリーズだ。相反するもの同士をかけ合わせたくなるのが常だ。

街で見掛けた人に恋をし、名前も歳も住む場所すら知らないけれど、その人のことを考えただけで胸が張り裂けそうで居ても立ってもいられなくなる。ほんの一瞬の邂逅が心を離さない。その人に生活があろうとそんなもん関係ないと言わんばかりに、恐ろしく真っ直ぐな気持ちを抱いている。真っ直ぐなのに、歪曲している。

恋心というのは、己の身体を離れて夜の闇を旅し、愛慕の人のもとへ向かうものではなかろうか。

そうして流れる星の如く炎を身に纏い、ほとばしる気持ちとともに巨大化してひとしきり夜空をさまよった後、鮮やかに燃え尽きる、そんなものではなかろうか。

流星は綺麗だ。昔から人は願いを託してきた。

けれどその光は、最后の力をふりしぼり形なきものへと急ぐ哀しい喘ぎなのだ。

美しい時は一瞬だと誰かが言った。まさに流星のようだ。

叶わぬ恋の哀しさではなく、化粧さえ満足にできない自分自身を悔やんで涙する健気さというか儚さというか。

まァ、それはただの強がりにすぎないのだが。

そんなやるせない片恋心が、ついには夜風の吐息を吐く夜の闇そのものに化けて、あなたとあなたの傍にいる誰かさえも包み込むと宣言している。正直気持ち悪さも否めない。

長谷川作品には恐い女がしばしば登場する。ストーカーチックというか、すさまじい執念というか。

なんでしょう、浮いたウワサなど皆無の私目ですから、そんな恐い女に追いかけられたいという潜在的な願望でもあるのでしょうか。

いやいやまさか。ほっといてください。


「夜間飛行」

作詞・作曲・編曲 長谷川万大


夜になればいつも旅をする 心だけ貴方のもとへ

闇をかき分けてく こぼれる灯りめがけて

私の知らないだれかの そばで子どもみたいに

眠る貴方の顔 まぶたからはがせなくて

ああ触れられぬ 二人の影

重なる熱さでこの胸の ちいさな想いを燃やされそうで

ため息 夜風にとかして 冷たい街をさまよう


唇からはみ出した紅 ふきとる手に色をつける

涙は貴方への とどかぬ想いではなく

鏡さえも遠ざけていた ささやかな暮らしのこと

さびしくなどないと 強がるほど哀しくて

また旅をする 濡れ乍ら

なりふりかまわぬ恋だから 何度も貴方 飛んでゆくわ

闇夜にまぎれてほほえむ いつでもそばで


なりふりかまわぬ恋だから 何度も貴方 飛んでゆくわ

夜風は私の息継ぎ 貴方のそばにいつでも

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