• 長谷川万大

「憧れの人たちは」

ようやく、このことを書ける。

野際陽子さんが亡くなった。もう三ヶ月だ。

ネットラジオの収録前、それをディレクターの窪田に知らされた。

数多い女優の中で、いちばん好きだった。

前にも書いたが、高校生のころ、祖母と昼ドラ「花嫁のれん」を見るのが楽しみのひとつで、羽田美智子さんとダブル主演を務めていた野際さんはほんとうに素敵だった。

「花嫁のれん」は、金沢の老舗旅館“かぐらや”を舞台に、そこに嫁いできた“えんじょもん(金沢の方言でよそ者)”=羽田さんと、かぐらやの大女将であり、羽田さんの姑である野際さんの嫁姑合戦や、かぐらやに関わる人々の人間模様を描いた旅館コメディ。

金沢弁を話す野際さんの愛らしさ、そして画面から滲み出る包容力はいつも安らぎを与えてくれた。

野際さんの夫役は山本圭さんで、旅館では大女将と板長というバッチリお仕事の関係なのだが、旅館とつながっている自宅(母屋)に帰ると、労わり合い、互いに敬愛する夫婦に戻り、その関係性は実に美しく、ボクの理想像だった。

四月から放映されているテレビ朝日「やすらぎの郷」(脚本:倉本聰さん)でもお二人は共演していて、またこのツーショットを見られるなんて、と喜んでいたのだが、まさかこんな結末が待っているとは夢にも思わなかった。

野際さんは、そこにいるだけで成立する人だ。

歩いていても、座っていても、或いは動かずにじっと窓の外を眺めているだけでも、そのすべてが美しく、芸術的なのだ。

一度でいいから、会ってみたかった。言葉を交わしてみたかった。残念でならない。

ボクが人生でたった一度でいいから会ってみたい人がどんどんこの世から姿を消していく。

ボクの憧れが昭和である限り、それは仕方のないことだとは分かっているのだが、やりきれないというか、切ないというか。

七年ほど前だろうか。

中学二年生だった。

その日は体調を崩していたかズルだったかは忘れたが、学校を休んでいた。夕方、何気なしにニュースを点けると、藤田まことさんの訃報が報じられた。

「はぐれ刑事純情派」も好きだったが、気難しい大御所俳優・本能寺海造を演じた「役者魂」が好きだった。主演の松たか子さんとの掛け合いも最高だった。

それを皮切りに、ボクの憧れが次々に旅立って行った。

声優の青野武さん、永井一郎さん、内海賢二さん、納谷悟朗さん、クレイジーキャッツの谷啓さん、児玉清さん、高倉健さん、宇津井健さん、作詞家・岩谷時子さん、永六輔さん、藤村俊二さん、作曲家・平尾昌晃さん、イーグルスのグレンフライさん、、

ここに書ききれない。

いつかそれが叶うまで、という想いを胸に過ごしてきたが、こうして叶わぬ夢をひとつひとつしまいながらこれからも生きていくのだろうか。

そろそろ時間が迫っていると、ようやく感じている。

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