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「ちいさなラブソング」

更新日:2018年12月31日

2ndアルバム「ポートレイト」収録


アルバムを作る時には必ず、かわいい歌、もどかしい恋の歌を一曲入れようと決めている。

前作「Vintage」では、『微笑みは罪』という歌を書いた。恋に奥手な男が秘かに感じる胸のときめき、、居ても立っても居られない気持ちとは裏腹に現実では何もできずひとり悩み続け、思わせぶりなあの子が見せる笑顔にもだえ苦しんでいる。そんな様をマリンバの音色とともに軽快なメロディに乗せてみた。

キミが笑うと世界が揺れる、とまで言っているこの歌の主人公。相当、情緒不安定である。

さて、それに続く第二弾はどんなことを書こうか。今流行りのムズキュン路線か? それに近いものはできたと自負している。

今回の『ちいさなラブソング』と前作『微笑みは罪』に共通するものは”片想い”である。

ただし主人公と恋のお相手の距離感は明らかに違う。前作では、ただ同じクラスというだけで特に言葉を交わす間柄でもない二人だった。何十年後かに卒業アルバムを見返して、こんな人いたっけ? と言われるようなポジションの男だ。いっぽう今回は、いきなり二人での帰り道である。え、付き合ってんの? どんな状況? という具合に。でも付き合ってないのね、これがまた。それはサビで分かりますけれども。

主人公は一世一代の勝負に出たのだ。告白する、今日こそは告白するぞ!

そして、やっとの思いで一緒に帰りましょうと誘いーの、とりあえずオーケーもらって一緒に帰ることにはなったが普通の会話すら出来ずに気まずい沈黙が続きーの、ああもう何も言えねえー! と心の中で爆発している、といったところだろうか。

挙句の果てには、いつかは言えるよ! と開き直る始末。誘っておいて言わねえのかよ! と突っ込みたくなるが、これぞTHE 青春という感じがする。ああ、私にはなかった青春よ、、せめて歌の中で感じさせておくれ。

歌ってのは、つくづく便利だと思う。歌の世界なら、出来なかったことが出来る。手に入らないものが手に入る。それは言葉とメロディが重なる瞬間にだけ、しかも自分の心の中でしか存在しないものだが、だからこそ儚くて、愛おしい。

青春を取り戻すかのようにそんな歌詞を綴っている。綴りまくっているような気がする。

おっと、取り乱してしまった。失礼。

この歌には「好きです」というフレーズがいくつも登場するが、いざ相手を目の前にするとなかなか言えないものではなかろうか。この四文字を伝えるために、どれほど遠回りをするのだろう。

歌の中で生きる言葉と相手に伝える時の裸のままの言葉は、どちらとも温度が違うのに、どちらとも難しい。

この歌のレコーディングには、同い年のシンガーソングライター・永吉愛ちゃんが参加してくれた。愛ちゃんは合唱部出身だから、ストレートでけがれのない声を出せる。

〽好きです 好きです あなたが あなたが

というサビで透き通るような声を重ねてくれた。

レコーディング中、ボクは彼女の背後で、ヘッドホン越しに歌声を聴いていた。録音テストの時、少し背伸びをして譜面台を両手でがっしりと掴んでいた姿が、柵から出たがって身を乗り出している猫みたいで可笑しくって、笑いを堪えるのが大変だった。

いつもはピアノで弾き語りをしているから、録音用のコンデンサーマイクを前に立って歌うのにあまり慣れていなかったのかも知れない。一、二時間ほどで全部のパートを録り終わり、記念撮影して見送った後、ボクとディレクターのYさんとで録りたての音を確認しながら、歌に新しい命が吹き込まれる喜びを感じていた。

数少ない同世代の音楽仲間である愛ちゃんとは四年前のCMコンテストで知り合った。

ボクも愛ちゃんも、あのCMコンテストが活動の基盤になっている。ボクはコンテストに出る前からずっと活動していたが、驚くことにグランプリを頂いてしまって、すごい勢いで一気に世界が広がった。彼女もそれが今の活動に繋がる大きなきっかけになったと、いつか話してくれたことがある。

年に何度かライブで一緒になると、楽屋では必ずコントのようなトークになる。

そんな仲間とともに曲作りができたことに心から感謝である。


「ちいさなラブソング」

作詞・作曲・編曲 長谷川万大


何も云えないまま 過ぎる帰り道

やさしい二人を 夕陽がじゃまする

なかなかふれあわない この指の先

重なる目と目で 語り合う素振り

月と太陽が 入れ替わる時 はやく云わなければ

また このもどかしさから 逃げられない

好きです 好きです あなたが あなたが

好きです 好きです 云えない 云えない


ふわり ふわり ふわりと 包んでいく

届きそうで届かない 雲のように

だれにもとらわれない 時間の中で

ちいさなラブソングさえ 歌えなくて

月と太陽が 入れ替わるなら この胸の いたみも

入れ替わってしまったなら どうなるだろう

好きです 好きです あなただけ あなただけ

好きです 好きです あゝ あゝ あゝ あゝ


もしも このまま 時間が止まって 歳をとらなければ

あなたがだれかに とられる ことはないのに

好きでした 好きでした いつかは 云えるよ

好きでした 好きでした すべてを ささげて

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